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海炭市叙景

海炭市叙景(2010)

監督:熊切和嘉

 

前の晩から降りだした雪がうすく積もり、出掛ける時間になっても牡丹雪があとからあとから降ってくる。友人との約束がなければ、外出は間違いなく止めていた。 

 

映画館のある町に着いても、雪はいっこうに降り止む気配はない。にじむ雪に視界を遮られながら、海炭市ってこういうカンジなんかな、と夢想していた。必死にたぐり寄せようとしてみるが、記憶は遠ざかっていく。

 

その町には造船所がある。降っていないときも雪の匂いがしている。両親を亡くし二人きりで慎ましく暮らす兄妹、ネコと老女、小さなプラネタリウムに勤める男、ガス屋の二代目、久しぶりに帰郷した青年。始まりも終わりもない、ずっと続く彼らの日常の、途中の空気を見せてくれる。

 

私のぼんやりした夢想なんか比べ物にならないくらい、冷たく暗く重く、時にはしめってあたたかい。

町の空気は、そこに住む人の息遣いで出来ているのか、町の空気がそこに住む人に呼吸をさせているのか。

 

地方都市特有の閉塞感は、雪がなければ私の町とよく似ている。外へ出ることも、そこに居続けることも自由ではある。でも何処へ行っても、決して逃れることはできない。それは束縛ではなく、生まれつきある痣のようなものだと思う。

 

正直に言うと、冒頭に出てくる兄妹があまりにも貧しいので、なんとなくあざといな・・なんて思っていた。でも竹原ピストルが画面に居ると本物になった。

 

淡々と日常が映るわけだけど、5つのパートそれぞれにも、その切り替わる順序もよく出来ていて飽きない。

 

加瀬亮演じるガス屋の二代目?のエピソードが私には特に印象的で、年齢的にも土地の雰囲気もまるきり自分の同級生の話みたいな気がした。閉じられた円のなかでぐるぐる、回し車のハムスターみたいな男。今まで観た物語のなかで最弱のDV夫だった。。あそこまで弱さを表現できるのはちょっとすごいかもしれない。母(事務員)がいちばん強し。。

 

それなりに派手な事件やどろどろの愛憎関係というのは存在しているのだけれど、それは歯を磨いたり、お風呂に入ったりするのと同じように、誰の人生でも繰り返されている。そして絶望の裏にちゃんと希望もくっついている。同じように見える毎日も少しずつ必ず変わっていて、それは良いとか悪いには関係なく続いていく。

 

この映画ではじめて音楽が流れたとき、実際に私の生活で、頭や体や心の内に音楽が鳴るときと同じような気がした。

 

原作の小説を読むとストーリーの背後関係などよくわかるらしいのだが、私にはどうしても映画とくらべるような悪癖があるのでどうしようかと思っている。